暑気当(しょきあたり):7/27小訂、7/31二訂
 暑さは別にして、今(2006/07/26現在)は暦の上では秋を目前にひかえた夏の土用にあたる。立秋(8/8〜)を迎えると、文字通り秋になるとともに、時候の挨拶も「暑中見舞い」から「残暑見舞い」へと変わる。が、暑さの最盛期はだいたい7月末から8月中旬であり、秋という響きとはずいぶんと齟齬があるのも確かである。
 この感覚の差は、四時(四季)や二十四節気の巡行、すなわち陰陽の盛衰という観点からこの時期を見るならば、秋の前半が暑いことも了解できる。陰(冷)と陽(暑)の関係には、いずれかが極点に達すれば逆の性質に転化していくという法則があり、それと同じく立秋は、夏気(暑気)の最も盛んになる夏至(6/21〜)を過ぎ暑気が顕著になりだす小暑 (7/7〜)、大暑(7/23〜)を経て、秋気(冷気)がはじめて出てくる時期にあたる。言い換えれば、暑気の極点を過ぎて冷気が少しずつ芽生えてくる(ものの、いまだ暑気の盛んな)時ということになる*1。これ以降は、次第に冷気が増して処暑(8/23〜)になれば文字通り暑気の止む(『説文』云「処、止也」)時期となり、朝夕の気温が下がり出す。白露(9/7〜)を経て秋分(9/23〜)になると、陰陽二気が中分するとともに本格的に秋気(冷気)が感じられるようになり、喘息や皮膚などの肺金(秋)の病が出だすのもちょうどこの頃である。

 以上のように、まさに暑気の最も旺盛なる時であるため、今で言うところの熱中症に相当する暑気当(暑気中とも書く)になりやすい時期ということにもなる。読んで字のごとく、暑気にあたることを意味しているが、そもそもこの暑気が体に対してどのような影響を与えているのかということがわかれば、暑気対策もまたできるはずである。
 暑気は、先より度々触れているように、夏の気であり、夏の在り方そのものを端的に示した言葉であるとともに、それ自体には積極的に人を害そうという意思のごとき力は微塵もない。しかし、その中で生きている人の状態(蔵気)が、ひとたび自然との間に矛盾を生じれば、突如としてその人にとって悪い影響を及ぼす暑邪として感じられることになる。暑邪に感ずる度合いは、当然ながら蔵気の消耗の程度により変化する。
 この暑邪の性質は、陰陽的には陽邪であり、症状の展開は極めて速く、かつ激しい。また、五行的には火気であるから、天の「熱」、地の「火」、人の「心(陽)」と気を同じくし、拡張、上昇、軟化、発熱、動的といった性質がある。
 したがって、暑邪と同気である人の陽気にその影響が及ぶことになり、短期間では陽の部位(胸から上、上焦)にて陽的な変化を生じさせ、これが長期間にわたり影響する時は、主に発汗を通して皮膚表面の気を消耗させるとともに(皮膚温の低下)、より体の内部(中焦、下焦)の陽気を衰微させ、暑気当の諸症状を引き起こす。その典型は 崔翡(陽暑)」と称される“陽気逆上”による「煩渇引飲(のどがかわき、水分摂取をしきりとする)」あるいは◆崔羹襦扮⊇襦法廚半里気譴襦藩杁い竜脱(陽虚)”による「厥逆吐瀉(手足が冷えると同時に嘔吐する)」である*2
  「中熱(陽暑)」は、炎天下や暑い場所に居ることにより体の陽気が上焦において過多の状態になり、身熱(体がほてる)、発汗、頭痛が起こり、その熱をさましたいがために冷物、冷水の多量摂取(煩渇引飲)に走る。このような状況に至った場合は、日陰に退避し、冷やすのは頭部のみにとどめ、温かい飲み物を摂るとよい。クーラーのよく効いた寒い部屋に入ると、身体各部の陽気を損ね、次の段階としての「中暑(陰暑)」に至ることになる。
  「中暑(陰暑)」は、夏の暑いさなかにいわゆる避暑のために冷所に居たり、あるいは冷たい物を過食するなどして、体の内外を同時に冷やすことにより、陽気(陽表、中焦、下焦の)を損ない生じる。したがって、軽度であれば食欲不振(中焦の陽気虚)や手足の冷え(厥冷)、倦怠感、顔色蒼白などでとどまるが、重度になれば嘔吐や腹痛、泄瀉(下痢)、悪寒(体温の低下)、意識の混濁(ひどい時は人事不省)などが引き起こされる。
 この「中暑」は、特に重篤であり、あらゆる陽気の虚脱による「寒」なる状態であるから、冷水はもちろんのこと、冷所や湿地にて休ませることは厳禁とし、陽気の回復を第一に体の内外をともに温めるよう、古書*3にも指示がある。

 なにしろ、暑いからといってやみくもに体を冷やすことは避けなければならない。たとえ暑気当にならなくとも、陽気の虚損(冷)の結果は、前記のごとく秋気(冷気)が本格的に盛んになる秋分前後に嫌でも知ることになるのだから。


*1:太玄斎『暦便覧』に「初めて秋の気立つがゆへなれば也」とある(本書は天明7年(1787年)に成書および刊行、寛政10年(1798年)に再版。国会図書館、東大などに所蔵される。本文は、鈴木充広、『暮らしに生かす旧暦ノート』、河出書房新社、2005年、42頁より援用)。また、本稿の掲載後に知ったのであるが、すでに鈴木充広氏の運営されるサイト「こよみのページ」暦と天文の雑学・暦と年中行事にて「なぜずれる?二十四節気と季節感」と題した論考がある。併せて参照されたい。
*2:張介賓『景岳全書』巻十五・暑證を参照するとよい(上海科学技術出版社影印)。
*3:熊宗立『医書大全』(『和刻漢籍医書集成』第7輯所収、上海科学技術出版社影印)および『医方大成論』(『和刻漢籍医書集成』第7輯所収)に「一時昏中者、切不可使与冷水并臥湿地。古法当以熱湯先潅、及用衣醮熱湯、熨臍下及気海、続続以湯淋布上、令暖気透徹臍腹、俟其甦省。(一時昏中する者は、切に冷水を与え、并びに湿地に臥さしむるべからず。古法、当に熱湯を以て先ず潅ぎ、及び衣を用い熱湯を醮(ヒタ)し、臍下及び気海を熨し、続続と湯を以て布上に淋ぎて、暖気をして臍腹に透徹せしめ、其の甦省を俟(マ)つべし。)」とある。

◆資料室◆へ戻る

キーワード
暑気当、暑気中、暑気あたり、しょきあたり、熱中症、日射病、熱射病、
陰暑、陽暑、中暑、中熱
| yoshioka49in | 資料室 | 04:30 | - | trackbacks(1) | -
http://b.yoshioka49in.com/trackback/551400
熱中症にご注意!
平年なら関東甲信、東海地方の梅雨明けは20日だそうですが、今年はいまだ前線が停滞していて、梅雨明けは来週になりそうな気配です。
| 希彩日記 | 2006/08/02 11:22 AM |