今月の言葉(2008年09月)
「故策之知得失之計」『孫子』虚実篇より

「故に之れを策(はか)りて得失の計を知る」

「之」とは敵状=敵の虚実のことであり、また己の状況のことである。あるいは敵と己の力関係(虚実)のことにも通じる。戦の前に、まず両者の関係を計ることで自己の利害得失=勝算を見極めなければならない。
治療の前にも、まずは病と病を持つその人の状況と両者の関係を知ること、つまり診察を通して病状を診断しなければならない。

具体的な方法は次の通り。「作之而知動静之理、形之而知死生之地、角之而知有余不足之処(之れを作(おこ)して動静の理を知り*1、之れを形(あらわ)して死生の地を知り*2、之れに角(ふ)れて有余不足の処を知る*3)」と。
敵を動かせてその動きの特徴とそれに応じた己の動き方を知り、[また動かせたことで]敵状がはっきりするから、それによって勝敗を分かつ地勢を探り、実際に軽く交戦してみることで敵と己の各々の強い所と弱い所を判断[して、敵の弱い所を攻撃]するのである。
診察においては、症状の詳しい状況をたずねることで病の特徴や発症の経緯を探り、また顔色や体型(肥痩)、声の大小高低などからその人の状態を知り、最終的には脈を診る(触れる)ことで病と病を持つその人の関係=病状を診断するのである。

当然ながら、敵状と己の状況において敵<己であれば勝算があるわけで、逆に敵>己であれば勝算は基本的にないものと言える。
病と人の関係においても同じで、診察によって病<人と診断されれば治癒へ向かうだろうし、病>人と診断されれば予後がよろしくないと判断されるのである。

戦であれ治療であれ、こうした状況判断をまず行い、先々の予測をしておかなければならないし、そうした判断のもとに具体的な戦術ないし治療法を模索していかなければならないのである。


*1:『説文』「作、起也(作は、起なり)」。
*2:『広雅』釈詁三「形、見也(形は、見なり)」。
*3:『漢書』律歴志上「角、触也(角は、触なり)」。

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