今月の言葉(09/01)
「故知勝有五」 『孫子』謀攻篇より

「故に勝を知るに五有り」

戦の前に勝ち目を計る方法が五つあるという。治療の前にも予後を決定づける事柄がある。

一つ目は、「知可以戦、与不可以戦者勝(戦うべきと戦わざるべきとを知る者は勝つ)」という。戦ってよいか悪いかという局面を見極められることが、勝敗を分ける*1
治療においては、局所的・対症的な方法を用いるべきか否かという病状判断を的確にできるかどうかが、予後を分ける*2

二つ目は、「識衆寡之用者勝(衆寡の用を識る者は勝つ)」という。軍の大小による行軍の別を知っていることが、勝敗を左右する。
治療においては、病の軽重に応じた選ぶ穴(ツボ)の数とそれに対する鍼や灸の量の分配を決める方法を熟知していることが、予後を左右する*1

三つ目は、「上下同欲者勝(上下の欲を同じうする者は勝つ)」という。主君と人民の心が一つに合わさっていることが、勝つための条件である。
治療においては、施術者と治療者(患者)の信頼関係がしっかりと築かれていることが、病を快方に向かわせるための条件となる*3

四つ目は、「以虞待不虞者勝(虞を以て虞ならざるを待つ者は勝つ)」という。策をめぐらせ[敵よりも]十分に準備を整え、[自分よりも]準備の不十分な敵を撃てば勝つことができる*1
治療においては、入念な診察と先を見据えた治療方針を立て、病を治癒させていけるだけの体力(自然治癒力)を備えていけたなら、予後も必然的によいものとなる*4

五つ目は、「将能而君不御者勝(将の能にして君の御せざる者は勝つ)」という。将軍が有能、かつ君主がそれに干渉しなければ勝ちをおさめられる。
治療においては、施術者がよく診断し、治療者が治療方法に指示しなければよい結果を得られる*3

以上の五つが「知勝之道(勝を知るの道)」であり、「知治之道」である*5


*1:詳しくは、2008年9月(虚実篇「故策之知得失之計」)の言葉を参照のこと。
*2:すでに何度も触れてきたように、『孫子』の最も基本的な姿勢であり、最善とされる在り方は、「戦わずして勝つ」ことである。戦は、双方が兵力を損なうためにできるだけ避けるべきであり、次善の事柄とされるのである。したがって、可能な限りそれをせずに済むよう、敵に負けない(攻め込まれない)だけの自国の充実を図ることが最も重要となる。治療においても同じで、病に負けない(ならない)だけの自己の体力(いわゆる自然治癒力)の充実を図ることが重要かつ根本的な対策なのである。確かに急な発病(敵の来襲)には、それに応じた対処(力攻めとしての逆襲)も必要となるが、多くの場合は自己の衰えによる慢性的な病であるため、対症状の治療=戦はするべきではないし、しても自己の体力をより損なうだけで無益である。詳しくは、2008年2月(謀攻篇「百戦百勝、非善之善者也。不戦而屈人之兵、善之善者也」)、3月(形篇「古之所謂善戦者、勝於易勝者也。…勝兵先勝而後求戦」)、4月(形篇「昔之善戦者、先為不可勝、以待敵之可勝」)、5月(九変篇「故用兵之法、無恃其不来、恃吾有以待也」)、8月(勢篇「凡戦者、以正合、以奇勝」)の言葉をそれぞれ参照のこと。
*3:詳しくは、2008年12月(謀攻篇「夫将者国之輔也」)の言葉を参照のこと。
*4:詳しくは、2008年6月(虚実篇「夫兵之形象水」)の言葉を参照のこと。
*5:最後に古い言葉「知彼知己者、百戦不殆。不知彼而知己、一勝一負。不知彼不知己、毎戦必殆(彼を知り己を知れば、百戦して殆からず。彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。彼を知らず己を知らざれば、毎戦必ず殆うし)」を引用して締めくられるが、これについては来月の言葉としてあらためて取り上げる。


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